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聖堂の建築は一二四八年に始まり、中断期を含めて六〇〇年以上かけて一八八〇年に一応の竣工をみたが、第二次大戦の爆撃で被害をうけ修復作業は今も続いている。 この大聖堂の工事が終わる時はこの世の終わり、というくらいのものだが、まずは当分この世は続きそうな按配で、現にこの石の塊のような塔のあちこちに地衣類が生え、膳の一種が棲みついているそうだ。
ケルン名物に香水、すなわち「オー・ド・コロン」の四七二番、それにチョコレートが人気が高く、ごく最近チョコレート博物館が開館されたそうだ。 歴史や考古学に興味があれば、大聖堂の脇にある古代史博物館をのぞいてから、半径三キロほどの半円形内にある旧市街をぶらぶらすれば、あちらこちらでローマ遺跡やら何やらにぶつかる。
ケルンやマインツは毎年二月頃の盛大なカニーバルの祭りでも名高く、奇抜な仮装や調刺的なはりぼて人形などで競い合っている。 また貨幣の統一がなかった中世には、ケルン、マインツ、トリーアの三大司教が協定して鋳造させたライン・グルデンという金貨が一つの基準的役割を果たしていた。
やがて大司教・選帝侯の直接支配を脱し自由都市になったケルンは、北のリューベックやハンブルク、ブレーメンなどのハンザ同盟のメンバーにもなる。 ハンザといえば北海、バルト海が中心のようだが、ケルン、そしてアンデルナッハまでもライン河を通じて交易活動に加わっていた。
ケルンとボンは、空港で一つに結ばれている。 そしてドイツ連邦共和国の初代首相は、ラインが東流し始めて間もなく、今は直接ラインに接してはいないが、かつてはライン河畔にあったクサンテンという町がある。
低ラインの多くの町同様、ここも第二次大戦の爆撃でほとんど壊滅状態に陥り戦後復興したものだが、ローマ時代から重要な要塞地で、中世ニーベルンゲン伝説の英雄ジークフリートが生まれた場所である。 元ベルク公の城府だったデュッセルドルフは、デュッセル川沿いの古い町、要塞施設のあったカール街、それにプロイセン治下に入って発展した新市、の三つがまとまってできた美しい町で、ライン・ルール地帯の経済的中心でもある。

今は日本企業の進出著しく、ドイツ語は一言もしゃべらなくても暮らせるという噂があるくらい。 しかし日本の中に租界地まがいのものができれば不愉快であるのと同様、あまり不用意な発言や徹慢ととれる態度は禁物。
元来が新生プロイセンの政策として「有能な」外来者や新参に寛容な雰囲気の伝統があっても、相互理解は個々の出会いから始まる。 ハイネ、シューマン、メンデルスゾーンゆかりの町であるデュッセルドルフを過ぎると、次はデュースブルク、東からルール川が合流するこの町は、文字どおりルール工業地帯の玄関口で、内陸港としては最大級の規模と荷扱い量を誇っている。
三五〇〇トンの船がここまでラインを遡行してくるのである。 更に流れを下ると再び東からリッペ川が合流し、ヴェーゼルの町がある。
交易地、荷の積み替え地として中世以来栄えた町で、「メリアン」の銅版画には風車の見える景観が描かれている。 ヴェーゼルの地名はこの地に多かったヴィーゼルからきていると言い伝えられている。
河幅が一キロ近くなったライン河は、ここでぐっと左折し、国境に近いエメリッヒで最大の河幅となるが、オランダに入ると幾枝にも分かれて低地帯を流れて行く。 ナチスが政権を握る三二一年までケルン市長だったコンラート・アデナウアーだった。
下ライン有数の聖堂をもつ現在の町の名は「聖人のもとに」から来ているそうで、ドイツの地名としては少し風変わりな感じがする。 またエメリッヒの対岸の内陸に少し入った所に位置し運河でつながるクレーヴェの町も、かつてはライン河畔にあったといい、こちらは白鳥の騎士ローエングリンゆかりの地だと地元の人は信じている。
白鳥にひかれた小舟に乗って忽然と現れた騎士に救われ結婚したエルザ姫が、誓いを破って夫の素性を問いただしたが故に、夫は再び白鳥の小舟に乗って去って行く、というローエングリン伝説はかなり広い範囲に伝承されていたらしいが、その舞台については、ブラバント説とクレーヴェ説が有力で互いに相譲らぬ形勢。 ま、ロマンティックな話にあまり目くじらを立ててもしかたないだろう。
クレーヴェには一〇〇メートルほどの小山の上に「白鳥の城」があり、低地平原地帯ではひときわ目立つ偉容を誇っている。 河はオランダに入るとまず北の低ライン川と南のヴァール川に分かれ、低ラインからはまず北に向かうイッセル川が分岐し、低ライン自体は古ライン川とレク川に分かれる。
ヴァール川はオランダを代表するマース川とつながったり離れたりしながら北海に向かっていく。 なにしろ標高差がほとんどないので、これらの河川の間にさまざまな運河が入り組んで互いに貸したり借りたりのような感じである。
古都ユトレヒトや伝統の大学町ライデンは古ライン河畔にあり、ロッテルダムはレク河畔に、「ラインのヴェニス」ドルドレヒトはヴァール河畔、そして焼き物やフェルメールの絵で知られるデルフトや国際司法裁判所所在地ハーグは、古ラインとレク川の問にある。 ロッテルダムは世界最大級の港湾を有し、二〇本以上のパイプラインがここから欧州各地につながっている。

しかしオランダ第二の都市ロッテルダムの名を、欧州のものとし、世界のものとしているのは、応仁のアントワープに旅したデューラーには、オランダ絵画界との交流や低地地方の風物を実見するほかに現実的な目的もあった。 先帝マクシミリアンが約束した終身年金を新帝カールによって再認してもらうのがそれである。
このためアーヘンでのカール五世戴冠式に彼は参向し、その後ケルンで催された諸侯の大舞踏会をも見物している。 国王の代がかわると諸侯をはじめ臣下が忠誠を誓うとともに旧来の権利を半ば強制的に承認してもらうのが慣例であったが、直接謁見をうけるような立場になかったデューラーもこの旅で首尾良く目的を達したのである。
現在ケルン大聖堂にある祭壇画の作者名がシュテファン・ロッハーと後世に知られるのは、この時デューラーが番人に小銭をつかませて見学し旅日記にその名を記しておいたからだ。 彼はその後ライン河を船で下り、マース川を遡って最後は陸路をアントワープへ戻るという、旅の中の旅をしたのだが、僕はこの旅日記に出てくる二つの名にちょっとコダワリを覚えた。
一人はアーヘンで「マティスにニグルテンで作品を贈呈した」という記事の男。 これが『イーゼンハイム祭壇画』のマティス・グリューネヴァルトの可能性があるからだ。
後者はマインツ大司教・選帝侯アルブレヒト・フォン・ブランデンブルクに従ってアーヘンに来ていただろうし、デューラーが一〇年ほど前に描いた乱の初め頃この町に生まれ、一五三六年にバーゼルで没し葬られた、デシデリウス・エラスムス、通称ロッテルダムのエラスムスだろう。 ボンが若くしてヴィーンに去ったベートーヴェンの生まれ故郷であることを誇れるように、ロッテルダムはこの「人文学者の王」の生まれ故郷であることを、やがて化石燃料が衰微する時代となっても誇ることができるだろう。
エラスムスは少年時代に故郷を後にし、パリ、ロンドン、ヴェニス、バーゼルなど終生ヨーロッパ各地を点々とするのだが、無視するはずがない。

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